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異世界で願いが10個叶うなら? 恒川光太郎『スタープレイヤー』読了。

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恒川光太郎、大好きです。

とはいっても私は大変恩知らずな読者なのです。恒川光太郎を楽しんではいるけど、中古本で買ってばかりの金を落とさないのですからw

私自身の財政的問題というのもありますが、彼の作品には何だか求めて手に入るイメージでは無く、どこかでふと出会いたいという手前勝手な願望持っているのです。

中古本の売っているお店で、探し、コンニチワ。ああそこにいたんですか。そんなある意味で運命的な出会いを繰り返して、今まで彼の著作を読んできました。

つい昨日、『スタープレイヤー』と出会いました。恒川光太郎の今までの作品には無い、明るく分かりやすい表紙に驚きつつも、購入し、読了したわけです。

スタープレイヤーとは

主人公の夕月は、あまり芳しくない過去のある、無職の女です。そんな彼女がクジを引いて「スタープレイヤー」を当て、異世界に転移させられたところから、この物語は始まります。

スタープレイヤーはその世界で10個の願いを叶えることができます。その世界は人がいて、動物がいて、街があって、でも地球ではないどこかです。

そんな世界で夕月は自分の過去を葛藤しながら、10の願いを叶えていきます。明快で、分かりやすいファンタジー小説だと思います。◯個の願いなんて、鳥山明の『ドラゴンボール』を彷彿させますし、特殊な力を持った地球人が異世界に影響を与えるという意味では、宮部みゆきの『ブレイブストーリー』もかなり似通った設定でしょう。

分類的にはハイファンタジーとか、異世界ファンタジーとかになるかと。一応、未読の方は先を読むのは控えたほうがよろしいかと。

ドラゴンボール 完全版 (1)   ジャンプコミックス

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ブレイブ・ストーリー (上) (角川文庫)

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願いへの葛藤

まず思ったのは、今まで読んできた恒川光太郎の作品とは、あまりに違いすぎることです。異世界ものという意味では決してはずれてはいないのですが。何だか怪しさが無いというか、わかりやすすぎるというか、王道すぎるというか。今までの著作にあった「恒川光太郎」という明らかな個性があまり見えませんでした。

また10個の願いが万能すぎて、そのお手軽感が、どうにもこの物語全体の葛藤を軽くさせているようにも思います。『ドラゴンボール』なら願いは一つだし、ドラゴンボールを集めるのに数々のドラマがありますが、願いは初めから10個叶えれるし、それゆえドラマが無いし。

タブレット一つで叶う願いというのは、全能感はあるのですが、そこまでに積み上げてきたものが無いので、何だか拍子抜けな部分もありました。このような設定ならもう倫理面での葛藤があってもよかったよ思うのですが、それも薄かった気がしますし。

 

凡人的リアリティ

ただ、手軽に手に入る10個の願いというのは、私たちにリアリティを抱かせます。何か凄い努力をしたわけでもなく、選ばれし家系とかでも無く、必然性もありません。クジを引いたら当たったという、ただそれだけ。主人公は当然何個か願いを叶えるわけですが、その叶え方はあまり効率的とは言えません。

この手の話だと、主人公やその周りの人が考察し、華麗な願いの叶え方をして、それに読者が魅せられるというパターンが王道かと思われます。しかし、今回のお話はそのような爽快感や、納得感は存在せず、むしろあくまで人間臭い、人間らしい願いの叶え方をします。おおよそ一般的な人が異世界で10個の願いを叶えられるという状況になったら、こうなるかもなぁという具合です。

そんな、スーパープレーでない、あくまでも人間らしい、ある意味で身近なリアリティを感じる事ができました。

 

願いの文章化

願いの文章化という点は新鮮さを感じました。そこが願いの制限の大きな部分だと感じます。その文章化の過程も、もっと晒してもよかったかなと思います。一ヶ月かけて考えたのはイイんですが、それは一体どんな文章になったのかが気になりました。

特に私自身、建築の仕事をしているので、建物を文章化する難しさは想像を絶するものがあります。どのような願い方をしてそれを説明するのかには、大いに興味があったので、少々残念です。

考えてみると、絶対にディティールの部分でつまづきます。まずどこに建てるかを規定するのが難しすぎる。地球から北緯何度とか、住所とか書けば何とかなりますが、異世界で何を頼りに場所を規定しうるのか。自分で穴を掘って、私が掘った穴を中心に、とかですかね。

 

異世界で10個の願いを叶えるということ

それはそれとして、「異世界で10個の願いを叶える」という設定は、自分ならどうするだろうという読者の妄想を誘います。

私自身色々と考えたのですが、まずは世界のあらゆる情報が欲しいですよね。どれくらいの面積があるのか、どのような国があるのか、それぞれがどういう過程で出来上がり、それぞれにどのような感情を抱いているのか。それとも、この世界にはスタープレイヤーしかいなくて、願いを叶えて殺しあっているのか、何人くらいスタープレイヤーがいるのか。

そんな様々な情報がないと、願いを考える前提条件に至れていないと思うんですよね。そういうあらゆる情報を手に入れたいです。文章化して、願うことも可能な類のものだと思うんですけどね。

その上で、近くでドンパチやっているのであれば、やはり身の安全を一番に考えたいですよね。そういう意味で作中に出てくるさすらい人には共感を覚えていました。透明人間が願いとして叶うのかぁという思いも同時に抱きましたけどね。身につけたモノごと透明になれて、しかもオンオフ自分で調節可能って、万能すぎるでしょ。

でも透明人間って割りと攻略法とかあるイメージがあります。存在自体はそこにあるので、足あとや、周辺の草木の動き、それに伴う音なんかも有りますよね。まあ一番は圧倒的な物量で攻めることでしょうか。砂塵を起こすのもよいかもしれません。

そう考えると、肉体強化が妥当な線だと個人的には思うのですが、一体どういう風に願いを言えば良いのやら。肌を硬質化させたり、圧倒的なパワーを導入したりなどは考えれますが、どれも具体的でないし。

ただ必要なのはまさにオンオフ機能でしょう。人間は人間離れして日々を過ごすことに耐えられないんじゃないかなぁとも思うので。超人になることに、普通は誰もが忌避するかと思われます。みんなと同じような日常を過ごせないというのは、悲しい気がします。

作中で透明人間を選んだ彼女も、常時透明人間だったら、その選択を下せなかったように思います。

 

最後に

色々言ってきましたが、最終的に評価としては、良質なファンタジー小説といった所でしょうか。個人的には途中で書いた凡人的リアリティがこの小説の一番の魅力かと思われます。

恒川光太郎は新たな領域に挑戦されているのだと思います。実際、恒川光太郎がこのような作品を書けるということは驚きでした。新しいことに挑戦すること、既存の領域を出て他で勝負することは大変労力のいることです。それを素直に応援したいと思っています。

次回作が予定されているそうなので、出たら読むつもりです。どこかでその本と出会ったらの話しですけどね。